平成16年度 所蔵資料展 展示資料一覧 <双六>

S1 小学教授双六(しょうがくきょうじゅすごろく)和泉屋市兵衛版 明治7年(1874)  71×106 cm

 明治5年の学制発布以降、急激に学校教育が整備されていく中で、掛図による授業が行われた。振り出し「小学校生徒勉強之図」はその様子を表している。上り「試験褒美之図」まで、授業で使われた掛図を27図集めて、コマとした飛び双六。当時の教材を一覧できるものとして資料としても興味深い。教科書が未だ十分に整備されていなかった学制発布直後の学校では、掛図が教科書役でもあった。

 

S2 単語の図壽古呂久(たんごのずすごろく)73×49 cm

 授業で使われた掛図を想定した単語図。振り出しの「糸・犬」から中央4ヵ所の上り「菊・萩」「鳶・雀」「兎・熊」「鰻・金魚」まで94のコマをめぐる廻り双六。中央に五十音図がある。明治5年の学制発布以降新しい教育方法が工夫されていったが、教室で使われたのが教育掛図である。その中で単語図は最もポピュラーな物の一種だった。五十音図、単語図、連語図等、28枚の掛図が作成されたという。これらは、各府県に広がり、全国各地の小学校で広く利用された。それまでの寺子屋教育とは異なった、近代教育方法の特徴である一斉授業が行われ、掛図は大いに活用された。

 

S3 生徒勉強東京小学校教授双録(せいとべんきょうとうきょうしょうがっこうすごろく)
 広重(安藤伝兵衛)画 多賀甚五郎版 明治10年(1877) 46×72 cm

 「師範学校」を振り始めとして、「神田錦町華族小学校」を上りとする、東京の44の学校をコマとしてめぐる廻り双六。これらの中には現在も存続している学校もある。各コマの絵は建物ばかりでなく、掛図を示しての授業だったり、体操をしているところだったりと、当時の学校の様子を知る上でもよい資料となっている。なお、当双六の袋には地球儀に向う生徒の図が示されているが、明治8年には文部省翻刻の地球儀が出たり、明治9年には「小学地球儀問答」が刊行されたりするなど、この当時地球儀に対する関心は極めて強かった。

 

S4 流行車尽し廻り双録(りゅうこうくるまづくしまわりすごろく) 一立斎広重画 土橋政田屋版 明治3年(1870) 50×74 cm

 「大炮車」を振り出しならぬ「くり出し」とし、「御所車」を上りとする廻り双六。新旧26種の車が描かれている。文明開化の新技術による車、江戸時代あるいはそれ以前から使われていた車、技術として車を使っている物、さらには車という名称が付く物も取り上げて、車尽くしの趣向も取り入れているところに江戸後期以来の絵双六の遊び心が見られる。

 

S5 新板東京車双六(しんぱんとうきょうくるますごろく 梅堂国政画 新庄堂版 明治3年(1870)頃か 37×50 cm 

 「人力車」が振り出しならぬ乗り出しで、天皇が乗る「鳳輦」を上りとしている廻り双六。  当絵双六の絵には開化の象徴の一つである車を想像も含めて描いた絵師の先取り精神が見出される。  画工の国政は四代目で、三代歌川国貞と同一人物、本名竹内栄久。慶応から明治に作画した。明治前期の小型子ども絵本なども描いている。

 

S6 大日本物産双録(だいにっぽんぶっさんすごろく)  立斎広重画 遠山久出版 明治11年(1878) 61×73 cm

 国内各国の名産を絵で表した75コマから成る廻り双六。「畿内 山城茶」を振り出しに、皇国物産会社の洋館を上りとしている。  この絵双六は明治10年に刊行された三代広重の揃い物の浮世絵「大日本物産図絵」を畿内山城から各地域の各国を経巡っていく廻り双六の形式に仕立てた物。散切り頭や洋装の人物も見られ、開化後の息吹が感じられる。

 

S7 新撰各県産物運送双六(しんせんかくけんさんぶつうんそうすごろく) 明治初期(14年以前か) 49×71 cm

 作画者、版元、刊年未詳。振り出しは京都府、上りを東京府として、各地を経巡る廻り双六。各地の物産が38コマ描かれている。商業ベースに乗った産業の様子が描かれているようである。特に電信が使われるようになったため、ところどころのコマに「通信」の文字と○印が付いている。上りに示された遊び方によると、ここで菓子や賃を受けることになっている。

 

S8 春遊一覧双六(はるあそびいちらんすごろく) 上村清左エ門版 明治15年(1882) 60×73 cm

 江戸時代から刊行は正月であることが多いせいか、この春遊びは新年、あるいは季節の初めとしての春に行われるものを集めている。「魚市場」のにぎわいが振り出し、「初荷」の行列が上りの25コマから成る飛び双六。大神楽や獅子舞のように新春の興行が多い大道芸人の各種が含まれて春を寿ぐ趣向ではあるが、説教やせり市、大工など様々な職業の仕事の場面が描かれているところに、明治前期の生活ぶりが垣間見える。「学校」では机と椅子で横書きの教科書を読み、子どもたちは靴を履いている。

 

S9 新双六淑女鑑(しんすごろくしゅくじょのかがみ) 間野秀俊作 小林清親画 山本松之助版 明治19年(1886) 73×72 cm

「無心の女児」を振り出しとして、「当世の淑女」を上りとする、45コマから成る飛び双六。各コマには説明が付いている。「無心の女児」では「四五歳時は白糸の如し智識大方は外より来る養育の任に当る者須らく留意すべし」とある。江戸時代以来の女性の出世双六同様、良縁をめざすところはあるが、将来の進路として、職業婦人の教員、著述家、宣教師、新聞記者、医師、音楽家が出てくるなど、新しい女性の生き方が見られる。

 

S10 東海道上り列車鉄道寿語六(とうかいどうのぼりれっしゃてつどうすごろく) 長谷川園吉版 明治22年(1889) 55×72 cm

 振り出しならぬ乗り始めは「西京」、上りは「新橋停車場」。何箇所かに蒸気機関車が描かれ、各駅すべてに開化の風物が描かれている。次の駅までの距離とともに運賃が示されているのが貴重である。当館のこの双六はたびたび雑誌等で取り上げられている。